もう二度と会えないだろうと思って、彼に口付けた最期の時を月は思い出した。
あれはただひっそりと、極数人によって行われた葬列だった。
その極数人の仲間によって、彼は葬られた。

永遠の闇の中へ。

Lが死んだ事を知るのは、おそらく月とその仲間達それからNと名乗る少年を初めとするLの元の知り合いたち。
そう、それだけが彼の死の事実だった。

(こんな時に、思い出すなんて)

苦しい息の中、月の脳裏にはその瞬間だけが何度も何度も繰り返される。
人は死の瞬間、今までの全てを思い出すと言うけれどどうやら嘘のようだ。

(だって、さっきからずっと)

ずっと同じシーンばかりが繰り返される。

眠るL。
黒い柩。
隠れて口付ける自分。
涙する同胞。

静かな、葬列。
安らかな、彼の顔。

その瞬間恐怖が月を襲う。

死が怖いわけではなかった。
いや、死は怖かった。
死は怖いのだが、それ以上の恐怖が月にはあった。

死=無に帰す、というのであればそれはいいのだ。
いつか人間である限りそれは避けられない。
まして、自分は負け、なおかつ死神にも見捨てられた。
そう、だから死を受け入れることが出来るだろう。

けれど、例えば死神の言葉が嘘だったらどうしようといつも思っていて。
死後の世界があるとしたらどうしようと、今この瞬間も恐怖していた。

(会いたくない)

会わせる顔が無い。

彼を殺したのは自分で。
彼を殺してまでも、自分は新しい世界を創ろうとして。
創ることが出来なかった。

そんな自分を彼はどう思うだろう?

哂うだろうか。
それなら、それでいい。
怒るだろうか。
それもまた、いい。
彼にはその権利がある。

けれどもし。

死後の世界があって。
そこで再会して。

再会したのに、その視線をそらされたら?

きっと、死んでるにも拘らず、自分は死にたいほど絶望するだろうと月は思う。
もしかしたら、死の瞬間、月がキラだと確信してそれでも負けた彼はこんな気持ちだったのかもしれない。

(あぁ、だからきっと自業自得)

死の先が無であればいいと生まれて始めて神に祈りながら。
月は今迄で一番長い40秒から解放された。