月は何かを忘れている気がしてならなかった。

それはとても重大な何かだ。
違和感とも言い換えられるその何かは、けれど何かのまま過ぎていて。
いつからそれを失ってしまったのかも分からない。

「どうかしましたか?」

ふと、隣から声がかけられる。
顔を向けると、月と同じように寝る準備をしているLと視線が合う。
黒々とした瞳は相変わらずで、彼がどんな感情を込めてそれを聞いてきたかはわからなかった。

もしかしたら心配してくれているのかもしれない。

「なんでもないよ」

だとしても、月はその感覚をLに伝えるつもりはまったくなかった。
いや、もし心配しているならなおさら、だ。
これ以上心配をかけることもないと思うし、大事な人に余計な心労を与えたくなかった。
Lはただでさえキラを追う事で神経を削っているのだ。
こんなくだらない事で彼を煩わせたくない。
それに何かを忘れている気がする、なんて言われてもきっとLも困るだろう。

「そうですか」

しゅんと項垂れるように。
表情は相変わらずの無表情のままで。
Lが俯く。

他の人間が見たなら不気味にしか映らないだろうその姿が、けれど月の胸を痛ませる。
恋人であるLのそんな気落ちした姿を見て放っておけるほど、月は冷徹ではなく。
傷つけてしまったのかもしれないと苦しく思う。

「本当になんでもないんだ。僕は、大事なことだったらきちんと竜崎には言うよ?」

小首を傾げながら月はLに言う。
その動作を以前Lがかわいいです、とポツリと洩らしていた事は覚えていて。
だから、少しでも彼の気持ちが浮上すればと思った。

(だいたい、大事なら忘れないはずだ)

その証拠に、月はLの些細な言葉も全て覚えている自信があった。
そんな自分が忘れる事なのだ。
きっと、くだらない事に違いない。
だから彼の手を煩わすほども無い。

「それでも。私は月君の全てを知りたいんです」

さらりと告げられた言葉に、月は困ったように曖昧に笑って。
キスすることでLを誤魔化した。
誤魔化しきれるとは思わないまま。

・・・・・・キラとしての自分を忘れたまま。