例えば、出会った時の事は今でも鮮明に覚えている。

あの変な座り方と、その容貌。
試験官にその座り方を注意されていたっけ。
僕はただ何となしに彼に目線をやった。

彼はまるで僕を見ているようだった。

黒い瞳が射るように睨むように僕を見ていたように思えた。
思えた、というのは僕には見られる理由など思い浮かばず。
だって、事実その時僕らは始めて出会ったのだ。
彼のような人物を忘れるほど僕は馬鹿でも間抜けでもない。

ただの変な奴。

それがその時の僕の彼への思いであり、すぐ消えゆくだけの些細な出来事のはずだった。

けれど僕らは再会する。
そして初めて言葉を交わす。

その時の事は今でも覚えている。

入学式。
当たり前といえば当たり前の再会。
彼が受かっていれば再会することだって当然ありえたのだ。

けれどまさか肩を並べ共に壇上に上がる事になるとは思ってなかった。
そして、まさか彼が自らLと名乗るなんて、思ってもみなかった。

『私はLです』

囁くように低く告げられた声。
今でもはっきりと覚えている。

それから、色々な想い出が彼と出来た。
その多くは敵同士の化かしあいであり。
けれどそればかりでなく、彼と僅かな休戦を楽しんだ時もあった。

彼とテニスをし、腹を探り合ったことも。
わざと囚われ、記憶を無くしたことも。
記憶を失いながら、彼に惹かれたことも。
そうして彼と体を重ねたことも。

けれど結局、彼を殺した事も。

僕は全部覚えている。
思い出というには鮮明に。
記憶と言うには、感情を交えながら。

(僕はこんなにも、覚えてる)

苦しくなるほどに。
これが罰なのだと思い知らされるほどに。
僕の中はLに満たされている。

そしてふとした瞬間彼を思い出し。
今でもこんなに彼を思っているのだと暴かれる。

(きっと、最期の時まで)

僕はこの苦しみと愛しさを抱き続けるのだろう。
彼以上に愛せる人なんて、居ないのだから。