今まで、月は家族以外の何かを特別だと思う事はなかった。

ただ、漠然と優しい人を守りたいと思ってはいたし、そういう人々が損をするのは嫌ではあった。
優しい人を傷つける悪者達を誰かが裁くべきだと思ってもいた。

それは月にとって信念のようなものであり、強い感情ではあった。
けれど、その優しい人を誰か一人に特定する事は無かったし、悪人を特定する事も無かった。

特別な人物をつくったことなど、無かったのだ。

だから。

(きっと、Lは僕にとって初めての)

特別な人物だ。

それが憎しみ、という負の感情であるにしろ。
月は家族以外の誰かにこれほど強い感情をもったことはなかった。
いつも曖昧で漠然とした好意と悪意と無関心だけで月の世界は成り立っていた。

だから、やっぱりLは特別なのだろう。
これほどに誰かを思う強い感情・・・・・・それはもしかしたら、家族を思う以上のものかもしれない。

(こんなに、誰かを思うなんて)

そんな日が来るなんて月は思ってもみなかった。
それも、会ったこともない人物をこんなに強い感情で思う日が来るなんて。

過去にそうであったように、未来もただ変わりなく曖昧に過ぎ、曖昧な感情だけを抱いて生きていくのだと。
曖昧な愛情だけで、誰かの手を取り共に歩むのだと。

そう、思っていたのに。

(こんな強い感情が僕の中にもあるなんて)

Lを殺したいと思う。
姿さえ知らないその存在を。
悪人を嫌悪するより強く。
善人を包むよりなお強く。
月は憎悪する。

そうして強く強く月はLを思う。
焦がれるように。
今までないほどに。