どうしてこんなに幸せなのに、苦しくなるのだろう。

「食べないんですか?」

幸せそうに甘いものを食べる、大切な人が居る。
今、捜査本部の人間は皆自宅へ帰り、残されたのは自分とLとミサだけだ。
ミサももう部屋で休んでいるだろう。
そんな時間に二人向かい合ってお茶をしている。

寝る前の二人のお茶会は、手錠で繋がれてから毎日続いていた。
習慣は変えれません、というのLの言い分に、月が付き合う形で。

「僕はいいよ」

自分の前にも甘いケーキが置かれていた。
けれど特に甘いものが好きでも嫌いでもない月はいつもそうしてLに譲る。
それを微かに瞳を輝かせ、受け取るLに月は少し幸せになる。

同時に、苦しくなる。

「美味しいですよ」

月にしかわからないほど微かにLが笑む。
その笑みに月も自然つられて微笑む。
同時に泣きたい衝動に駆られながら。

(どうして?)

幸せの訳は知っていた。
月はLが好きなのだ。
それは常識で言えば異常で、それでも明確な感情。
家族愛でも友情でもない、恋愛感情だ。

そう、だからLが微笑むとつられるのも、Lが幸せそうにすると嬉しいのも別段不思議ではない。
それほどに、自分がLを思っていると知っているから。

けれど、こんな同時に何故切なくなるのか、悲しくなるのかは分からない。

男同士で、この感情が叶うことがないと分かっているからだろうか。

その思いは確かに月の中にあった。
決してこの感情は報われる事はないだろうと覚悟していた。
男同士、だというのは高い障害だ。

もっとも、同時にそれでもいいと月は思っていた。
思いが伝われば自分は確かに瞬間の幸せに浸れるかもしれない。
けれど長い目で見て、彼を幸せに出来るかと問われれば断言できなくて。
ならばもっと普通の幸せな人生を彼には生きて欲しいと月は願う。

だから切なさの理由はそれではないと思う。
確かに切なさの一旦ではあるかもしれないが。

けれど月を襲う悲しみも切なさはそんな軽さではなくて。

そう、まるで。

自分がLを追い込むと確信しているような深さで。

(あるはず、ない)

誰よりも彼の幸せを望む自分が、Lを傷つけるなんて。
あるはずがない、と月はもう一度胸中で繰り返す。

胸の苦しみはそれでも消えなかった。