じっと、月はLを見ていた。
正確にはLではなく、その形の良い爪を。

形良く、女性ならば羨むような爪の形をしている。
それでいて、女性が羨むような桜色ではなく、白っぽい爪だ。
例えば冬であったならば寒いのだろうか、と思わず心配になるかもしれない。
もっとも、Lに限ったならば、それはひどく似つかわしくあるように思えた。

そんな風なことを考えながら月はLの爪をジッと見つめ続ける。

更に正確に言うなれば、その形のよい爪を子供のように噛む、彼を見ていた。

Lは何かを考えながらモニターを凝視し、ひっきりなしに爪を噛んでいる。
それがとても勿体無く思う。
月は女性でなく、爪の形だとかに気を使ったりはしてなかったが、
そんな月でさえ噛む事が勿体無く思えるほどにはLの爪は整っていた。

そう、思わず、月が勿体無いと思ってしまうほどに。

そこまで考えて月は軽く首を振る。
何を考えているのだろうと、自分を叱咤する。

今はキラ事件の最中で、自分はLとともに協力し、何としてもキラを捕まえなくてはならなくて。
それなのに、その事を置いてまでLの爪に見入り、その理由が勿体無いなんて感情だとは何ということだろう?

そんな暇があるならば捜査に集中しなければいけない。

そう言い聞かせ、月は必死に資料に向き合おうとする。
それでもちらちらとLの爪が気になって仕方が無い。

「月君、どうしたんですか?」
「え?」
「先ほどから集中力が乱れているようですが」

相変わらず爪を噛みながらモニターを見つつ、Lが声をかけてくる。
それを聞いて月は一瞬どうしようか躊躇った。
爪を噛むのをやめろ、と言ってみようか?
けれど、そんな事でずっと集中力を切らしていたと知られるのは嫌だった。

かすかな迷いの時間。

きっと爪の事を言い、そのために集中できなかったと言えば呆れられるだろう。
それでもも言わずこのままLの爪が傷付くのを見るのは嫌だと思う。

ただ、Lの爪が好きだからとそういう理由だけでは説明が付かなくなってきた感情。

それに気付かないふりをして、結局月はLに伝える事にした。

「爪を噛むの止めないか、竜崎」
「どうしてですか?」
「それは・・・・・・」

どうしよう、とまた月は躊躇う。
けれど、もうここまで来たなら同じか、と開き直る。

「折角綺麗な爪なのに、勿体無いと思うからだ」
「勿体無い?」

驚くように竜崎が尋ね返してきた。
そしてぶつぶつと勿体無い、勿体無い?と一人呟いている。
まるで、その言葉の意味を知らないように。
その言葉の意味を探すように。
その言葉の真意を、探るように。

「どうしてそう思うんですか?」
「竜崎が、綺麗な爪をしてるからだ」
「・・・・・・月君は、私の爪が好きなのですか?」

好き?
今度は月がその言葉の意味を探す番だった。
気に入る事、心が自然と向かう事?
確かにそうだと思う。
傷つけたく、傷つけられたくないほどには気に入ってしまったのだ。
けれど、Lの言葉には何か深い意味が隠されている気もして。
気楽には頷けなくて。

「月君?どうしたんですか?」
「あ、いや・・・・・・」
「好き、なんですよね?」
「そう、なんだと思う」
「そうですか」

ようやっと頷いた月に、Lは何かを考えるように天上を見て。
それから、もう一度そうですかと繰り返し、爪を噛む事を止めた。