崩れる体はひどくゆっくりと思えた。

「ワタリ?」

子供のように自分以外の名を呼ぶ彼。
横から少し見えたLのその双眸は今まで無いほど揺れ、怯えている。
それを見ながら、ただぼんやりと月は、あぁ、Lにも感情はあったのだとそんな感想を抱いた。
そしておそらくもう倒れるだろう彼を凝視していた。

「皆さん、死神に気を・・・・・・」

月の予想通り、Lの体が崩れる。
月からその表情は見えなくて、それがとても残念で。
月は慌てて彼の傍に駆け寄る。
そして心配するふりをして彼を抱きかかえた。

腕に抱く彼は思ったよりも小さく思えた。
自分を邪魔していたころは巨大な壁にさえ思えたと言うのに。
人は命が終わる瞬間が近付き、儚さを纏った瞬間こんな風に小さくなるのだろうか。

彼の双眸は見開かれていた。
そしてその瞳にはやっぱりという言葉が浮かんでいた。
そんな様が堪らなく愛しくて、あぁ、自分は彼をやっぱり好きだったのだと気付かされる。
気付きながら月は苦笑する。

気付いてどうなるのだ。
彼はもう死ぬ。
それは揺ぎ無い真実で。
決して消える事の無い未来だ。
更にいえば、彼を追い詰めたのは自分だが奪うのは自分ではなかった。

(あぁ、それが少し悔しい)

せめて自分の手で葬れたなら。
少しは気が済んだのかもしれない。
あるいは気が触れてしまって、何も分からなくなるかも。
あぁ、それもいいとぼんやりと月は思い。
どうして奪うのが自分ではないのだろうと悔しくなる。

ゆっくりとLの双眸が瞼に隠れていく。
それでも視線はしっかりと月を責めるように射ていた。
月がその視線を受けてLにだけ悲しく微笑む。

もっと勝利に高らかと笑えると思っていたのに。
今月の胸から湧き上がるのは、奪われる悲しみと泣く事さえ許されないという己への戒めだ。

月は笑みをまた自分を笑うものへと戻す。
そして彼はただゆっくりとLが消えるのを見守り続けた。
彼の最期の一欠を一つも逃す事が無いように。