表情の読めない奴だと思った。
そう、最初は、感情の読めない奴だと思った。
そんな事を思い出しながら、月はパソコンに向かうLの横顔を見ていた。
そう、白い顔に、わざとらしい隈。
表情は常に一定で、何を考えているか分からない。
きっとそれさえも彼がLたる所以だろうも思っていた。
そうそう感情を読まれては、探偵は務まらないだろうから。
けれど、だ。
実際はそんな事は無いと、最近になって月は気付いた。
今だって、いつもと変わらない顔で、そのくせ退屈しているのが手に取るように月には分かった。
手錠につながれて、長く同じ時間を過ごすようになったせいもあるのかもしれない。
けれど。
「どうして泣いてたんだ、流河。」
そういえば、手錠につながれる前も、彼の感情が分かった事があったと思い出す。
「・・・私は、泣いた事はありませんが・・・。何時の話ですか?」
退屈しきって考える気も無いくせに、それでも画面から視線を逸らさず自分を見ずLしらを切るに月は少し苛立つ。
そのまま押し黙った月に、それでもLは振り向かなかった。
結局沈黙に耐え切れず、月は話を続ける。
「・・・僕が監禁から解放された時だよ。」
「泣いてませんよ?」
無表情にLが月を見る。
瞳に不思議そうな光がワザとらしく宿っていた。
それだけで、彼が泣いていたということを確信できる。
もし、本当に泣いてなかったのなら、きっとLは今も退屈そうに画面を見て、月を見ない。
「泣いてたさ。」
だから、確信を持って月はLに宣言した。
涙を浮かべる事無く。
無表情に、けれど確かにLは泣いてたのだと。
「泣いてたさ、今と同じように。」
退屈そうな、不思議そうな、そんな色々な仮面を巧みにつけて。
無表情で覆い隠しながら。
それでもLは、今もまた泣いているのだ。
いや、あの時からずっと泣き続けているのだ。
「・・・今、泣いてるように、見えるんですか?」
また、不思議そうなふりをして。
自分が一番わかっているのに、わからないふりをするLが少しもどかしくなる。
いっそ、声を上げて涙を落せば、彼の中にわだかまる絶望は、少しは流れるかもしれないのに。
「泣いてるよ、確かに。分かるんだ。」
つっと、白く冷たいLの頬に月は手を這わす。
何故彼が泣いてるかは、実は見当が付いていた。
それでも、それを突きつけるのを少し躊躇ってしまうのは、きっと彼が泣いている理由を認めるのが、自分にとっても
苦しいからだ。
「・・・僕がキラじゃなかったから。」
そう、Lは自分がキラじゃない事に絶望して泣いているのだ。
あのタイミングからずっと泣き続ける彼をずっと見ていて、いつしか分かってしまった。
分かって、月も実は泣いていたのだ。
そんなにも、自分が嫌いなのかと思って。
それでも、彼が気になってしまう自分を哂って。
そして、気付いてしまった。
・・・自分がLを特別に思っていることを。
だからこそ、Lの泣き声に気付いたのだという事にも。
「僕が、キラだったら良かったのにね。」
ポツリと月は本音を洩らす。
好きだと気付いて、思ってしまった愚かな考えをLに暴露する。
「月君?」
「そうしたら、君は泣き止むのに。」
思わず出てしまった本音に長い溜息を吐いてから、月はLに微笑んだ。
「何でもない・・・忘れてくれ。」
悲しく、綺麗に微笑んだまま。
何も言わないLを残して、月は部屋を出て行った。
静かに、泣きながら。
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