思い出すのはその唇。 思ったとおりの冷たい唇。 いつも甘いものを食べてるせいか、与えられた口付けはどれも甘かった。 今はもう何も語らない唇。 捜査について語り合うこともない。 ふざけ半分に(いや、彼としては真剣だったのだろうが)愛を囁くこともない。 月の心を乱すこともない。 物言わぬ、彼。 骸と化した体。 彼をそうしたのは月自身だった。 なのに。 (声を聞きたいと、思うなんて) 月君、と呼んで欲しい。 冷たくて甘いキスをして欲しい。 心を乱して、奪って欲しい。 奪いきってくれたら、よかったのに。 そうすれば、月がこうして彼を見下ろし、後悔することもなかったのに。 責任転換して月は小さく哂う。 自分の愚かな考えに。 自分の弱さに。 静かに眠るLの骸に向かって哂う。 (あぁ、僕は負けたんだ) そしてその瞬間、結論に思い至る。 彼は死んで、それでも月の心を奪って逝った。 一生月の心は取り戻せない。 彼は手の届かない所に逝ったのだから。 「好きだったよ」 彼を裁いてまで手に入れたこの道を歩かないといけない。 もう心は無くした月に、他に無くすものなんてないのだから。 |