黒い一冊のノートは、月にとってとても大事な物だった。

一見何の変哲も無いそれは、実は死神のノートだ。
名前を書くだけで相手を殺せるという殺人ノート。
言った所で、きっと最初は誰も信じないだろう。

使ってみない限り。

月は今、そのノートを手放すべきか悩んでいた。

かつて、一度はこの手を離れたノート。
今は無事戻ってきて、記憶もこの手の中にある。
何を思い自分がこのノートを手放したのかも覚えている。

そうLを追い詰めるためだ。

けれど。

(予定外、だったな)

月は静かに両目を閉じる。
そうして真っ暗のなか、思案する。

記憶を失い、真っ白な状態で彼に近付き、共にキラを追って。
あろうことか、月はLに好意を持ってしまった。

クッと月は笑みを漏らす。
苦い苦い笑みを。

何と言うことだろう、と自分を笑ってみても、Lを思う思いは消えない。
策士策に溺れるとはこのことだろう。

月はゆっくりと両目を開く。
その手には黒い黒いノート。

結論が出ない。

例えばノートを手放し、まっさらな状態になったなら。
自分は再び何も悩む事無くLの隣に立てるだろう。

例えば、ノートを手放す事無く、それでもキラを放棄するなら。
後ろめたい感情のまま、それでも共に歩けるかもしれない。

けれど。
けれど、だ。

それでは今までの行為は何になる?

感情を殺してまで歩いてきた道だった。
あまたの命を手にかけてまで築いた理想だった。

自分の手はもう赤く染まっていて、それは落ちる事は無い。

そんな自分がどうして幸せになれるのだろう。
どうして、ノートを手放したり、キラを放棄できるのだろう。

(だけど、もう、戻れないんだ)

分かっているのに、それでもやはり、ノートを捨てたいという衝動もまた収まることはない。
きっと、Lに勝つ瞬間まで、いや、これから一生その感情はつきまとうのだろう。

(それがきっと、僕への罰)

それならばそれを自分は受け入れよう。
受け入れるしか、方法は無いのだから。